一般社団法人
アクション・フォー・コリア・ユナイテッド

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元駐英北朝鮮公使の太永浩氏を招き、講演会を開催しました

2019/07/17



 2019年6月20日、東京都文京区に所在する文京シビックセンターで、元北朝鮮イギリス公使である太永浩氏を招き、「ポスト・ハノイ 金正恩の核交渉戦略と私たちの対応」と言うテーマで、講演会が開催されました。

 今回の講演会は、北朝鮮難民救援基金が主催し、北朝鮮の難民と人権に関する国際議員連盟、アクション・フォー・コリア・ユナイテッド、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会、NO FENCEが協賛団体として名を連ねました。

 会は太永浩氏の安全警備を前提としたため、事前登録制で参加者を募ったため、参加者が少ないのではないかという懸念がありましたが、市民活動家、北朝鮮専門家、メディアなど80人以上が参加する盛況でした。
 募集開始直後に、規定参加定員人数を大幅に超える参加申請があり、北朝鮮をめぐる国際情勢への関心の高さは、予想以上でした。

 太永浩氏の40分ほどの講演の後、パネリストとして、コリア国際研究所所長の朴斗鎮氏、宮塚コリア研究所所長の宮塚利雄氏のコメントが続きました。その後、参加者からの質疑応答の時間を持が、時間内では、出された質問に答えることができないまま終了しました。
 太氏は講演の中で、「北朝鮮は、日本、韓国、アメリカの民主主義システムの構造的な弱点を把握し、5年の政権交代の周期で新たな合意を結び、核開発を進めてきた。金正恩もその政策を踏襲しており、自由民主主義国はそのことを知らなければならない。また、アメリカは北朝鮮と交渉するにおいて、核放棄と体制維持の条件交換の順序を間違えてはならず、あくまで核放棄を推し進める必要がある。アメリカは多くの経済制裁方法があるが、それを使わずにいる。例えば、公海上の北朝鮮籍船に対するアメリカの保険会社や、北朝鮮の在外公館と取引のある金融機関にセカンダリーボイコットを引き起こせば、北朝鮮を追い詰めることができるが、それをせずにいる」と語りました。

 拉致問題に対しても言及し、「現在の政府間対話では並行線であるが、日朝平壌共同宣言に署名した小泉元総理が、安部首相と金正恩委員長の仲裁をし、双方を引き合わせる方法を個人的に考えている。アメリカでは大統領経験者が公職を退き、非公式な交渉から成果を上げたことがある」と述べました。

 さらに、北朝鮮の人権問題に関しては、「ここ十数年で、国際社会が北朝鮮に対して、国民の人権の向上を絶えず訴えてきたおかげで、人権状況は少しずつ変わってきている。これからも、国際社会の場で、絶えず人権向上について訴えていかなければならない」と話しました。

 パネリストの朴氏は「太元公使の発言には全面的に賛成。トランプ大統領においては次の選挙が控えている中ではあるが、北朝鮮の戦術に惑わされずに、戦略を考えていく必要がある」と述べました。

 宮塚氏は、「太元公使が書かれた今回の本の中で、自身の本貫のことを非常に詳しく書き記しており、感激を持って本を読んだ」と話し、「北朝鮮は様々な問題を抱えているが、最終的には人権問題から切り込んでいくべき。中国もロシアも人権問題については反論できない」と結びました。

 その後、参加者からの質疑応答も、経済制裁から人権問題まで多岐にわたりました。

 以下、講演内容の全文を紹介します。
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 アメリカは核を持った共産勢力とは、北朝鮮、台湾において直接対峙することは避けた。これを受けて、スターリンと金日成は、1950年6月25日に、朝鮮戦争を仕掛けても、米軍は介入してこないであろうと判断した。
 これを通してわかることは、1949年8月のソ連の核実験からわずか5か月後にはアメリカの戦略が変化した、ということである。

 中国は、核実験に成功し、1967年には水素爆弾の開発に成功している
 1967年に水爆事件を成功させてから2年の時間を稼ぎ、1969年ニクソンがニクソンドクトリンを発表した。ニクソンドクトリンの中核は、核を持ったアメリカと中国が全面戦争をすることはない、ということである。
 アメリカはこれに基づき、75年に南ベトナムから、79年には台湾からアメリカは引いて行った。これを踏まえて、北朝鮮は数十年間、北朝鮮が核とミサイルを握って、アメリカと台湾に影響を与え続けるなら、いつかの時には、韓国から引くだろうと考えている。

北朝鮮の戦略について語る太永浩氏 ©北朝鮮難民救援金

 アメリカは絶対に、アメリカの一つの都市と、韓国の自由民主主義体制を引き換えにはしないだろうと考えている。
 したがって金正恩としては、最低アメリカの一つの都市を核ミサイルで攻撃できると言う備えを見せつければ、今年ではなかったとしても、いずれかの時に韓国を放棄して北朝鮮の核保有を認めるだろうと考えている。
 パキスタンは98年に核実験に成功して、核保有を事実上成功したが、アメリカはパキスタンの核保有を認めた、ということになっている。
 アメリカにとって、イスラム国の核保有と北朝鮮の核保有を比較すると、北朝鮮が核を保有する方がマシであろうと考えている。

 今、アメリカが北朝鮮との核交渉に臨んでいるのは、韓国がアメリカにしがみついており、北朝鮮の核保有を止めてくれと言い続けているので、日本と韓国の両国の手前、北朝鮮と交渉しているように見せかけている。
 したがって、今後、日本と韓国が北朝鮮の核保有について免疫がついてきて、あまり騒がなくなれば、アメリカはそれについて交渉しなくなると考えている。
 戦略を実現するにおいて、北朝鮮の核保有を妨げようとしているアメリカ、韓国、日本の自由民主主義体制は、北の核をなくすには、構造的な弱点を抱えているとみている。
 アメリカ、韓国、日本の自由民主主義システムにおいては、4~5年ごとに政権が変わる。あらたな政権が発足するたびに、過去の政権のやり方は脇において、新たに北朝鮮と仕切り直しで交渉する。
 これを利用して、(北朝鮮は)過去30年間、核問題交渉においては同じパターンを繰り返してきた。

 どのようなやり方かというと、自由民主主義国で新たな政権が発足すると、その政権と曖昧模糊な提携を結ぶ。原則に合意した上で、その解釈について、民主主義国と北朝鮮は争いながら、2~3年の時間を稼ぐ戦略をとる。4~5年経つと、せっかく良い交渉を結んだのに、その履行をしようとしていなと、アメリカや日本に責任を転嫁する。
 そうした上で何をするかというと、皆さんもご存知のように、2016年~17年にやったように、わざと緊張の水位を高めることによって、韓国や日本の市民を不安に陥れ、その中に平和を求める声が高まるようにする。そうすると、日本の一般国民は、平和を実現しようとする指導者に票を投じることになる。
 そうなれば、アメリカ、日本、韓国において、非核化が先なのか、平和が先なのか、という二者択一を突きつけられる形になり、そうした民主主義国家の中において、平和が先、というように国民の流れを作り出す。その後、新たな政権とまた合意を結ぶ。

 この5年周期で北の核武装がどんどん発展した。この30年の周期を見ると、アメリカも韓国も、一貫して北朝鮮の非核化を推進した国はない、その度に政権が変わっている。

熱心に耳を傾ける参加者 ©北朝鮮難民救援金

 ここで見る写真ですが、2018年の新年の辞において、「私の執務室の机の上には核のボタンがある」といって世界を戦慄させた金正恩の姿である。この一言に世界は戦慄した。この脅しの上で、平昌オリンピックに参加するという平和攻勢を展開した結果、世界はそれを大歓迎し、賛同した結果になった。
 ハノイの決裂前に、北朝鮮は当初に見込んだよりもはるかに多くの外交的成果を手に入れてきた。
 シンガポールでの最初の米朝首脳会談、南北の4.27板門店合意以前、当時オバマ政権だったが、この3カ国の中で、北朝鮮の非核化を推進するという合意が成立した。
 韓米日の共通項として、まず非核化があり、そのあとに交流・協力対話を行うという、戦略的忍耐をオバマは一貫して維持した。

 ところが、金正恩は、4.27南北首脳会談とそのあとの平壌宣言を通じて、まず南北関係(の改善)、次に非核化と言うように、その順序を反転させることに成功した。
 以前の、非核化あってこそ南北関係が推進できるのではなくて、まずは南北の関係を良好にし、そこからの逆転に成功した。
 このシンガポールにおける米朝の合意は、過去30年の北朝鮮との核交渉において最悪の失敗作になった。
 シンガポールの米朝合意を見ると、トランプが非核化に先立って、相互の信頼醸成が非核化に役立つと書いていが、これは大変な失敗だと私は判断する。

 第一には、アメリカと北朝鮮が新しい関係を築く。
 第二に、朝鮮半島の恒久的で安定的な平和体制を築く。
 三番目になってようやく非核化が出てくるが、それも朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力するのではなく、努力するように務める、に過ぎない。

 このシンガポールにくる米朝合意が、今後の北朝鮮との交渉においてどれだけ大きな障壁になるか認識せずに、合意を結んだ。
 結局のところ、シンガポールの合意をどのように解釈するかで、北朝鮮とアメリカの対立が深まって行った。

 アメリカの解釈では、非核化を進めていく中で関係を改善していくのだ、北の解釈では、米朝で新たな関係を結び、その中で非核化を進めていく、と順番を逆転させた。
 この合意が結ばれて2週間後、ポンペオが北に行く。北の主張は、米朝の新たな関係を樹立し、平和体制を構築し、そのあとに非核化を進めていくと言う意味であった、と公表した。平和体制を作る前に非核化交渉を進めてくるのは順序が違うと言った。
 金正恩は、いくらでも解釈の余地がある合意を結ぶことによって、交渉の余地を残していった。
 シンガポール合意を通じて、金正恩は、アメリカの軍事的圧迫から解放された。第二には、これまでの制裁を維持するが、アメリカがそれ以上の制裁をしないことにした。
 その段になってようやくトランプは、シンガポール合意は過ちだった、と気づくことになる。結局、ハノイ会談を決裂させることによって、ようやくシンガポールの合意を破綻させ、原点に戻ることができた。

 ハノイの交渉決裂は、北朝鮮の非核化をもたらすにおいて、絶好の機会を設けることができたと見ることができる。
 トランプはハノイの会談において、もう一つの戦略的な失策を犯している。シンガポールとハノイの会談において、アメリカは何を中心にするべきだったのか、それは、すでに作っている核とミサイルを中心に議論するべきだった。

 ところがトランプは北に対して、北が隠している5つの各施設、これを非核化の初期の段階でオープンにするのかどうかという迫り方をした。この質問について、金正恩はその施設があるともないとも言っていない。
 これから北朝鮮は、どうするのか。今日、習近平が平壌に到着した。これから金正恩がどうするかが重要である。習近平が来る前、6月4日、北朝鮮は外務省のスポークス談話というものを発表している。
 この外務省スポークス声明で何をしているか、金はトランプに対して、お互いに掲げている条件をまずは下ろそうではないか、そして、双方の利益にかなう核交渉の条件を探ろうと協議している。
 それでは各人の一方的な主張を下ろそうというのは、何を意味しているのか、これが大事なところ。

 今、アメリカはハノイの決裂後、北朝鮮の核について、一括妥結を求めている。その最初のステップとして、アメリカが要求しているのは、北朝鮮が保有している核施設を全て報告しろ、これが最初である。北が全て提示していることを確認した上で、それをどのような段階で解体していくのか、を話している。
 北朝鮮にしては、段階的な履行、それは具体的には何を意味しているのか。それを一つのサラミだと考えてみよう。そのサラミの一切れをちぎってトランプに渡して、トランプから引き出そうとしている。その最初のサラミはなんなのか、ハノイで言ったことは、ヨンピョンの核施設を最初のサラミとして渡そうとしている。

 トランプはヨンピョンだけではなく、お前が保有している核施設を全て差し出せ、と言ったが、その要求に対して、金正恩は何も答えていない。
 今、習近平を迎えて、金正恩が何をどのような手を出そうとしているのか。
 トランプがハノイで突きつけてきた5つの核施設を差し出すことができる、という出し方をするだろう。
 金正恩がそのように動いた時、トランプがどのように動くか。そのような発表をしたなら、トランプはそれを非常に歓迎する動きになるのではないか。
 このようなリップサービスを一言やることによって、トランプに譲歩したような姿勢を見せるだろうし、金正恩がひとまず投げかけた偽りの情報にトランプが飛びついて、北朝鮮への制裁を解除する方向に動き出したなら、これは最悪の状況となる。
 これまでのプロセスが一つも履行されることなく、制裁が解除されるという流れになる。

 国連は、2006年から2017年にかけて北朝鮮に対して11の制裁をしてきたが、(北朝鮮が韓国を保有しようとしている、あるいはしたということ)に基づく制裁である。トランプが核を放棄していないのに、制裁の解除を獲得した。これは、アメリカと国際社会が北朝鮮の核保有を認めた、という解釈をして報道することだろう。
 これまで、北朝鮮のミサイルを解体するとは一言も言っていない。
 トランプがこの後どのような動き方をするのかは一切見えない。
 大統領再選を目指すトランプが焦って、隠蔽した核施設をオープンにさせたということで北朝鮮とディールをすることになれば、金正恩は核ミサイルを一つも放棄せずに制裁解除の恩恵を享受することになるし、トランプは交渉の成果が上がったと、自分の成果として喧伝することになる。
 したがって今後、どのような取引が米朝間でなされようとも、制裁解除に着手するプロセスは、まずは核の解体からだと私は主張したい。

 第二の問題としては、トランプが金正恩をいかにコントロールしているか、ということだ。
 先日金正恩から親書を送って受け取ったトランプ大統領は、そのことを「beautiful letter」立派な手紙を頂いたと言っている。
 今、第3回の首脳会談にトランプは執着している。3回目の首脳会談実現前までは、制裁を強化したりしないと、トランプはストップをかけている。
 北朝鮮の核といえば、癌であり、これはこの1年6ヶ月の間、引き続き生き続けている。
 今回、この癌を叩こうとするなら、対北制裁を強化しないといけないはずが、抗癌剤であるところの制裁が水平であって、殺すことができていない。
 この水平の時間をいかに伸ばすか、というのが金正恩の戦略になっている。
 私がアメリカ、韓国でセミナーをするたびに主張しているのは、北朝鮮の核保有の現状が続く限り制裁を強化しないといけない、現状維持ではいけない、制裁を強化しないといけない、そして隙を見なければいけないと主張している。
 金正恩の戦略は、中国とロシアが裏でサポートしている。

 習近平は、米朝の核交渉を、両方ともひとまず中断しと、二つの軌道でそのまま進めていこうと。これをわかりやすくいうと、北朝鮮も核ミサイルとICBMを止めているのだから、アメリカもさらに制裁強化をすることはせずに一旦は止めてはどうか。
 金正恩と会談したプーチンが、北朝鮮の核を止めるためには、北の体制を保証しないといけないと話している。北朝鮮は核を保有しているが、まずは制裁を解除しないといけない、というのがプーチンの立場である。

 今後、第3回目の米朝首脳会談が開かれるとして、金正恩の意図通りに進んだ場合、会談は核放棄の交渉ではなくて、核軍縮の交渉になってしまう。
 核軍縮交渉というのは、核保有国同士がやる交渉である。
 北が考えることは、そのようなプロセスを通して、自ずと北朝鮮が北東アジアの核保有国となるのである。
 核を持ったこのような状況で5年も時間を稼げば、韓国も北朝鮮も免疫ができてきて、アメリカからの非核化要請も弱まるに違いない。

 一つの写真を見て欲しいが、北朝鮮はこの20数年来、食料が足りなくて、世界に食料を求め続けている国である。
 外国から食料を輸入して、人民を養う力があるにも関わらず、その力を核兵器(開発)に使っているのが北朝鮮である。
 ある国が食料危機に陥り、世界が食料支援をするというのは色々なパターンがあるが、その国の食料(配給)システムが麻痺してしまっている、というのが一つだが、北朝鮮ではそうではない。内戦もないし、行政システムも麻痺していない。

 二番目としては、国民がお金がなくて、国際社会に支援に求める場合がある。ところが、北朝鮮には国民を養うのに十分なお金があるにも関わらず、それを国民を養うのに使わず、はるかに高価な、核とICBM開発に使用している。
 したがって、金正恩の目には、北朝鮮の人民は、人権を保証する対象として入っていない、ということである。国際社会は、金正恩と話をするたびに、北朝鮮の指導部に、人権問題を気づくように仕向けないといけない。
 それが自分たちの仕事だというように、気づくようにしないといけない。