一般社団法人
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韓国総選挙の結果と南北統一への影響

2020/04/28

 4年に一度行われる韓国の国会議員総選挙(定数300)が4月15日に行われ、文在寅大統領が率いる与党「共に民主党」が系列の比例代表政党「共に市民党」と合わせて改選前の128議席から50議席以上も伸ばし180議席を獲得し、圧勝した。かたや、最大保守野党の「未来統合党」は系列比例政党と合わせても103議席と、改選前の112議席を大きく割り込み、惨敗した。

■文政権の「コロナ対策」が勝利要因
 韓国も日本と同様、新型コロナウイルス感染症が全国に猛威をふるっており、反密接、反密集,人との距離間隔明けが全社会呼びかけられる非常事態の中での選挙は、延期論も出ていたぐらいだった。蓋を開けてみると、防疫管理の厳しい投票場に出向くのも消極的になりやすいのに66%という近年まれにみる高投票率であった。政治、経済、社会、安保などすべての分野で不安定な錯綜とした韓国社会において、国民の政治意識の高さは相変わらずとの強い印象を与えた。 

 今回は大統領任期4年の折り返し地点での総選挙であるため、文在寅政権への「中間評価」の性格を持っていたし、せっかく金大中, 盧 武鉉政権に続いて保守から取り戻した3度目の革新・民主化政権であったから、与党、共に民主党としては、絶対に負けるわけにはいかない選挙であった。

 他方、経済失政、曺国法務部長官をめぐる不正疑惑、青瓦台の選挙介入疑惑、北朝鮮追従の南北政策、対米、対日外交の行き詰まりなど文在寅政権の悪材料には事欠かない。改革を口実にした強引な政権運営に歯止めをかけ奪権するためには、何としても過半数獲得を至上命令と覚悟し、「文政権審判選挙」と打って出た「統合未来党」にとっても結果によっては党の存在価値が問われる重大決戦であった。

 しかし、結果は、どちらが勝っても僅差との大方の予想を覆した。与党勝利の最大の要因は、コロナ対策への国民の圧倒的支持であった。4月23日現在、過去に100人を超えていた感染者は10人未満となった。59万人を超えるPCR検査の大量実施、ITを駆使した感染者の移動経路の徹底追跡、飲食店営業などの強力な迅速自粛規制など、命にかかわる新型コロナという目に見えない脅威に立ち向かう挙国ムードの中、熱心に動き回る与党、現政権に肩入れするのは国民感情としてごく自然であろう。文在寅政権の悪政、失政を覆い隠す「コロナ選挙に勝った」と言われる所以である。

■韓国社会の「主流」を見誤った未来統合党
 他方、未来統合党は文在寅政権の失政、特に国民の大多数が不満を唱える経済失政を好材として選挙争点に浮上させることにまず失敗した。単なる戦術、政策的失敗よりも大きい要因がある。韓国社会の歴史的「主流」を見誤り、冷戦時代の理念闘争志向が抜けきれず旧態依然の反共保守の固執的体質を変えることができなかったことだ。
 どういうことかといえば、韓国社会は、長い間続いた過去の対北対決安保や経済成長・競争ではなく、分配や平等そして平和主義的な発想が、社会全体として優位になっている(産経新聞4月21日付)のに、未来統合党はこの韓国の政治、社会の巨大な変化潮流、民意の変化を汲みとるどころか、依然として親朴・非朴の派閥争いに明け暮れ、国民からはそっぽを向かれていたのだ。選挙結果は、大勝した「共に民主党」へ国民の圧倒的な政策的支持があったわけではなく、旧時代の醜態をさらけ出した「未来統合党」への国民の嫌悪感、拒否感と政治的非力の反映であった。大極旗デモの余韻では、ろうそくデモの時代潮流を超えることができなかったということを意味する。

 文在寅大統領は、62%という高い支持率(韓国ギャラップ調査4月24日)を背景に、自ら提唱する朝鮮半島プロセス構想を再度、積極推進していくとみられる。2017年朝鮮半島での戦争危機に際し、「仲介者外交」を展開し、北の金正恩労働党委員長との2度の南北首脳会談をこなし、歴史的な米朝首脳会談の橋渡しなど、南北関係改善、朝鮮半島平和定着の基盤作りに功を奏したことは評価されてよい。
 だが、ハノイ米朝首脳会談の失敗以降、核放棄を後回しに挑発行動を続ける北朝鮮への制裁解除を緩めない米国は対北核放棄原則路線を続けるとともに、韓国の対北融和路線にもブレーキをかける。米国の顔をうかがう韓国は北から愚弄されつつも、金剛山観光、開城工業団地事業の再開に意欲を見せる。

■脱北者当選のインパクト
 この文在寅政権の前に大きく立ちはだかったのが、未来統合党のソウル江南地域区から出馬して当選した元駐英公使の脱北者、太永浩氏(選管委届名、太救民)である。過去にも19代国会議員選挙時、保守セヌリ党比例代表で当選した趙明哲氏がいたが、主に脱北者の待遇改善などに注力した。

 だが、現在、保守野党には太永浩氏ほどの北朝鮮通、統一安保問題の論客は見当たらない。太氏は、脱北者保護にとどまらず、北朝鮮追随の文在寅政権の統一政策に全面的に対決していく姿勢を示している。すでに、これを察知して北朝鮮は太氏に対し、悪罵暴言を放っているが、北側もそれだけ危機感を強めている証左であろう。
 今回の21代総選挙では、脱北者の人権団体代表のチ・ソンホ氏も未来韓国党比例代表で国会入りを果たした。太氏、チ氏の二人は、3万3000人の脱北者を代表し、その人権保護、改善にとどまらず、南北統一政策に関し、文政権に強いインパクトを及ぼすことは間違いないとみられる。(東アジア総合研究所理事長 姜英之)