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アクション・フォー・コリア・ユナイテッド

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【特別寄稿】「ロシア – ウクライナ戦争とコリアンドリーム」(ソ・インテク AKU韓国 共同常任議長)

2023/06/30

この特別寄稿はAKU韓国共同常任議長ソ・インテク氏が、昨年(2022年)3月22日、ウクライナ戦争が勃発して1ヶ月程の時点で韓国のウェブサイト「コリアンドリーム」に寄稿したものです。ウクライナ戦争が朝鮮半島情勢に与えた影響や、朝鮮半島の統一を実現を目指す上で貴重な見解であるため、この度、日本でも紹介させていただきます。(※)や(中略)などは事務局で加筆しました。

引用元:ロシア・ウクライナ戦争とコリアンドリーム
https://www.kdtimes.kr/news/view.php?no=1328

去る(※2022年)2月24日に勃発したロシア・ウクライナ戦争は我々、朝鮮半島の運命と深い関係に置かれている。 これが私たちがこの戦争を注視する理由だ。ウクライナと朝鮮半島は「デカルコマニー(フランス語で”転写術”の意)の運命である。世界を価値中心に分ける時、ウクライナと朝鮮半島は、二つの相反する価値が衝突する断層線上に置かれているという点だ。一方の断層が活性化されると、もう一方の断層にも影響を与える。

デカルコマニー、ウクライナと朝鮮半島
価値中心に見ると、世界は二つの軸に分かれている。一つの軸は民主主義と人権を重視した西方世界、もう一つの軸は、権威主義と全体主義国家である中国とロシアである。この二つの軸が激突する断層線上に置かれた地域がウクライナと朝鮮半島だ。過去の歴史を振り返ってみると、このような解釈が論理的な飛躍でないことが分かる。

帝政ロシア期、ロシアは不凍港を確保するために南進を試みた。その最初の南進の目標は黒海を通じて地中海に進出できる バルカン半島とクリミア半島だった。しかし、クリミア戦争(1853-56)とアフカニスタン戦争(1878-80)はどちらもイギリスによって挫折した。するとロシアは極東アジアに目を向けた。北京条約(1860)で沿海州を占めたロシアは三面が海である半島国家朝鮮で勢力拡大を図り、朝鮮朝廷の歓心を得ることに成功した。朝鮮の高宗は日本から国権を守るためにロシア公使館に身を委託する俄館播遷(1896−1897)を決行する。しかしロシアは朝鮮の国権を守るのに関心がなく、自分たちの利権を占めるだけで血眼だった。

日露戦争(1904)に敗れ、ロシアによる朝鮮半島の掌握は失敗に終わった。朝鮮半島は日本の植民地となり、以後ロシアにはボルシェビキ革命(1917)が起き、ソ連という巨大な共産主義帝国が誕生する。ソ連は1945年、日本が太平洋戦争が終わって敗退する機会を逃さず、朝鮮半島北緯38度線の北側を占めた。そしてソ連軍青年将校の金日成を操り、ソ連の傀儡政権を誕生させた。スターリンは金日成を軍事的に後援し、朝鮮半島全体を掌握するための6.25韓国戦争を起こさせた。ソ連製の戦車を前面に出した北朝鮮の南進攻撃は、米国と国連の介入によって失敗してしまう。現在ウクライナの人々は、朝鮮民族が70年前に経験したことを自分たちが経験しているということを、多分知らない。今ウクライナを助けようとする世界の姿を見れば、朝鮮戦争勃発時の状況が目に浮かぶ。

ロシア、中国、北朝鮮の三角関数
ロシアのウクライナ侵攻は私たちの安全保障上の大きな懸念を生み出している。中国と北朝鮮はロシアの侵攻行為を支持した。それはこれらの国家が米国と西側世界に敵対的という点を共有しているためだ。現在、中国と米国は南シナ海と台湾問題を中心に先鋭に対抗している。中国が南シナ海と台湾を中国の核心利益と明らかにしているが、米国もこの地域で中国の勢力拡張を認めるつもりはない。米国は戦略的資産を東アジアに集中させる「アジア回帰(Pivot to Asia)」を主要政策として堅持してきた。インド-太平洋戦略、QUADに代弁される米国の戦略は中国包囲に合わせられている。ところが最近のウクライナ戦争の勃発は米国の東アジア戦力を弱める可能性が大きい。もしウクライナ戦争がアメリカの足首をつかむ状況が進めば、米国はヨーロッパ地域の安全保障にもっと焦点を合わせなければならない状況がもたらされるからだ。 そうなると、台湾服属とアジア地域内の覇権を掌握しようとする中国には有利な機会が作られることになる。

北朝鮮も現在、自分たちの首を締める対北経済制裁を無力化させ、朝鮮半島全体に主導権を一気に収める機会として活用しようとするだろう。今年(※2022年)に入って北朝鮮は自ら開発したものとは決して信じられない極超音速ミサイルを9回も発射した。 中国やロシアから提供されたと疑われるこのミサイル挑発はすべて米国を相手にしている。北朝鮮、中国、ロシアが裏で緊密に協力しているのだ。

米国はロシアの侵攻に対して軍事的対応ができない限界を持っている。世界最大の核兵器保有国であるロシアとの軍事的衝突は、世界を滅亡に導く第三次世界大戦になるためだ。ロシアの侵略を止める唯一の手段は経済制裁だけだ。しかし、これはヨーロッパ諸国の助けなしには不可能である。ところがヨーロッパ諸国はロシアの天然ガスをエネルギー資源に依存している。コロナで途方もない不況を経験している欧州諸国が途方もない経済的損失を負ってロシア制裁に積極的に参加することを期待するのは現実的に容易ではない。果たして米国主導の経済制裁にヨーロッパ国家が参加するのか?そしてエネルギー資源を除いた経済制裁が果たして効果があるかどうかについて疑問が残る。ロシアのウクライナ侵攻について、超強大国米国を中心とした一極体制が多極体制に変化する過程であるという解釈が存在する。簡単に言えば、米国が国際的リーダー シップを喪失する、という意味だ。このような状況が演出されれば、朝鮮半島にとっては最悪のシナリオになる可能性がある。

大反転が起こる!

(※中略)

ロシアの失敗が中国と北朝鮮に与える影響を我々は注視しなければならない。中国の台湾復帰の野望は大きな打撃を受けた 。侵略戦争を起こした側がどのような対価を払うのかを見るのは中国指導部に対する大きな教訓になるだろう。北朝鮮もこのような状況を注視するものとみられる。北朝鮮を支えている中国とロシアの変化は、現在の国際社会が細かく編んだ対北経済制裁を抜けるオプションが減ることを意味する。

ウクライナの事態は私たちにも重要な教訓を残している。まずは力がなく、一緒に戦う同盟がない国の運命だ。第二は、中国、ロシア、北朝鮮などの全体主義国と隣り合って暮らすことの危険性である。このような共感帯を拡散することは、北朝鮮への融和的アプローチを試みた文在寅政府の対北政策を、新しい政府が国民的抵抗なしに廃棄し、新しいアプローチを設ける機会を提供している。

「コリアンドリーム」とウクライナの事態
ウクライナの事態は、多分私たちにとっては朝鮮半島の統一を考える良い機会となる。ロシアの没落は朝鮮半島の地政学を大きく変える大事件になるからだ。しかし、それは私たちが主導的に私たちの運命を開拓する方法にかかっている。

筆者は「コリアンドリーム」の観点から、今回の事態で得られる教訓は次の通りだと思う。何よりウクライナ悲劇の出発点は国家アイデンティティにある。プーチンはウクライナが元々、国家ではなく、ウクライナに住む住民たちは同じスラブ民族であり、ウクライナ政府はロシアの安保を脅かす新ナチスの勢力であり、腐敗した犯罪集団だと今回の戦争の名分を作った。一言で言えば、ウクライナは国ではないという意味だ。

ウクライナはどのような国を実現するかについてのビジョンが不明瞭な状況でソ連から分離独立した。オレンジ革命(2004) を通じて、親露政権でロシアを嫌悪する親西側政権になり、ユーロマイダン(2013)デモのような激しい政治的混乱の中で国家は分裂し、民族的葛藤の中で流血の事態が続いた。このような状況で、ウクライナの汎ロシア政権のNATO加入試みはロシアの安全保障の脅威と解釈され、今回の戦争の名分となった。

このような事態が統一を目指す私たちに与える教訓は明確だ。統一を通じてどのような国を成し遂げるかについてのビジョンが不明瞭になれば、それは周辺国家の脅威として認識され、さらには戦争にもつながる可能性がある。ただ統一を通じて朝鮮半島全体に親米国家が樹立され、単に在韓米軍が中国とロシアと国境に面する形態の統一としてのみ認識されれば周辺国家の同意を得ることはできないだろう。また、統一が私たちの経済的利益だけを追求し、周辺国家を疎外させるものとなってもいけない 。統一後の朝鮮半島の姿が周辺国家にどのような安保的、経済的利益になるかについての明確なビジョンを確立しなければならない。

過去70年間、南北コリアは異なる体制を夢見ながらコリアンの共通のアイデンティティを失っている。韓国社会だけを見ても、 理念をめぐる政治的分裂は韓国社会を両極化している。このような状況では統一は遥か遠くである 。 イデオロギーの亡国的対立から抜け出すためには、私たちが民族共通のアイデンティティを探し、共通の未来ビジョンを樹立することは非常に重大でないわけがない。

言い換えれば、私たちの民族のアイデンティティが何であり、それに基づいて私たちが夢見る統一された国のアイデンティティが何であるかについて私たちは明確でなければならない。そうしてこそ統一は我々民族すべての仕事となり、国際社会の支持を得ることができる。したがって、弘益人間の理想を中心に自由と人権を保障する国でありながら、周辺国家に平和と経済的繁栄に利益を与える国になるというコリアンドリームのビジョンを、これまで以上に世界の前に伝えることに渾身の力を注ぐべきだ。ロシアとウクライナの戦争は、なぜ韓国がコリアンドリームに関心を持たなければならないのかを明確に伝えている。


ソ・インテク AKU韓国 共同常任議長